循環器内科教室について

はじめに

心不全は病態が複雑であるがゆえ、心不全を扱ういわゆる心不全医は様々な情報を統合し、ベストな答えを見つけるスペシャリストと言えます。 対症療法が主体であった時代を経て、現在心不全診療は細分化され、一人の患者さんと向き合う時に、多くの知識と技量が求められます。 当班は、拡張型心筋症などの左心系疾患の診療、研究を基盤に成長し、それぞれのサブスペシャルティ領域の力を伸ばし、互いに共有することで、国内で類をみない心不全班に発展しています。 全ての心不全に対応可能であり、他施設から患者様の紹介はもちろん、他施設からの研修なども随時お待ちしております。


心不全班のサブスペシャルティ領域

  1. 左心系疾患

    当院は、拡張型心筋症に対する診療、研究に以前より力を注いで参りました。最近の薬物治療の進歩は目覚ましく、賑わいを見せておりますが、実施施設が限られる高度な医療も提供しています。

    1. 救急心不全医療

      当院は第三次救急医療機関であり、重症虚血性心疾患、劇症型心筋炎、重症心筋症、急性弁膜症などを背景とした重症心不全患者の治療を担っています。中でもECMO、IMPELLA、IABPなどの機械的循環補助治療を要する心原性ショック、心肺停止症例の診療数は国内有数です。また、急性期から心不全班が積極的に治療に参加しており、綿密な血行動態評価に基づいた高度な心不全治療を行っております。同時に心臓移植まで見越すような、慢性期までのシームレスな治療も可能としています。

    2. 心臓再同期療法 (CRT: Cardiac resynchronization therapy)

      CRTは、至適な薬物療法にも関わらず心機能の悪化と同期不全を認める心不全患者に対して、心機能だけでなく予後も改善するペーシング・デバイスです。当院は、県内屈指のデバイス植込術件数を誇り、その全てを心不全班が担当しております。全例に心電図や心エコー図を用いた設定調整を行い、個々の症例での最適化を目指しております。CRTそのものも重要ですが、CRT前の薬物療法、そしてデバイス植込術から最適化、さらには患者さんの将来を見据えた長期的な薬物調整までを、一貫して心不全班が担当していることが当院の特色であり、他施設では少ない魅力的な環境と思っています。

    3. 左室補助人工心臓 (LVAD: Left ventricular assist device)

      重症心不全に対して、できうる全ての内科的外科的治療を施しても状態の改善が得られない場合に心臓移植が検討されることがあります。しかし、本邦では深刻なドナー不足ゆえ長期の移植待機期間を要します。その期間の生命維持のためにLVADを体内に植込む治療があります。2011年に移植適応症例に対してのLVADが保険償還され、当院は県内でもいち早く植込型補助人工心臓実施施設としてVADチーム(実施医、管理医、専任看護師、臨床工学士、理学療法士)を作り管理を行なっています。術前の心不全管理はもちろん術後の外来管理まで循環器内科医が積極的に関わっているのが当院の特色です。さらに、2021年より恒久的にLVADで在宅診療を行うdestination therapy (DT)も保険償還され、さらにLVADの適応となる症例が増加することが想定されます。重症心不全患者さんに対して、心臓移植の検討やLVAD治療を適切に提供してまいります。

    4. 経皮的中隔心筋焼灼術 (PTSMA: Percutaneous transluminal septal myocardial ablation)

      肥大型心筋症により、心室中隔基部が肥大し左心室流出路が狭くなってしまう病態 (閉塞性肥大型心筋症)に対するカテーテル治療です。労作時の息切れ、胸痛、動機、失神などの症状があり、薬剤抵抗性かつ左室内圧較差を認める場合に適応になります。左室流出路の肥大心筋を栄養している中隔枝にバルーンカテーテルを通して選択的に高濃度エタノールを注入し、局所的に心筋梗塞を起こすことで左室流出路狭窄を解除します。処置は局所麻酔で行い、およそ2時間程度で終了します。開胸手術と異なり低侵襲であるにもかかわらず、適する患者さんに対しては劇的な効果を生むこともある治療法です。心筋症患者さんに対する治療アプローチにおいては、患者さんごとに異なる特徴を踏まえた多様な治療選択肢から選択あるいは組み合わせて行う総合力が必要とされます。当院では、肥大型心筋症の患者さんに対する診断から始まり、薬物療法、ペースメーカー/植え込み型除細動器、PTSMA、外科的手術に至る多角的な治療アプローチを包括的に行なっており、適切な治療法を提供できる環境が整っています。

    5. 弁膜症に対するカテーテル治療
      • 経カテーテル的大動脈弁置換術 (TAVI: Transcatheter aortic valve implantation)
      • 経皮的僧帽弁形成術 (MitraClipR)

      弁膜症は、心不全治療の重要な介入点の一つですが、従来の弁膜症の制御方法は、開胸手術による心臓手術に限られており、侵襲度の高さから、重症な患者様ほど治療が出来ないというジレンマがありました。カテーテル治療である、大動脈弁狭窄症に対するTAVIや僧帽弁逆流症に対するMitraClipRは、高齢、低左心機能などの重症患者様の弁膜症治療を可能とし、以前のジレンマを解消しつつあります。しかし、弁膜症の原因に心筋症が隠れている場合、心筋障害の進行や不整脈の合併により、弁膜症の治療のみでは不十分となることがあります。当院の特徴は、弁膜症に対するカテーテル治療のみならず、各心筋症のスペシャリストによる薬物治療に加え、アブレーション治療やCRTも行っております。また最重症患者様に対しては、心臓移植を見据えたLVADも可能です。弁膜症に対しての最適な治療法を、多面的に検討し、提供しております。

  2. 心エコー

    心エコー図検査は、今や循環器疾患診療に欠かせないツールです。画像の明瞭化や装置の小型化により敷居は低くなった一方、SHD (structural heart disease)では3Dエコーなど専門的な評価が求められる重要な分野となっています。

    1. 心エコー教育

      心エコーは、全ての循環器内科医が身に付けるべきスキルです。皆が自信をもって行えるように、当科では、教育にも力を入れています。循環器病棟には、心エコー図検査を施行する専用の検査室があり、いつでも誰でも自由に使用できます。当科を2ヵ月以上ローテートする研修医は、一通りのルーチン検査ができるようになります。病棟医向けには「心エコートレーニングカンファレンス」を定期的に開催し、スキルアップを目指します。2021年度からはZOOMを併用し、出向している医師も参加できるようになりました。心エコー図専門医(暫定含む)が2名おり、心エコー研修も可能です。

    2. SHD

      TAVIやMitraClipRのみならず、PFO(卵円孔開存)やASD(心房中隔欠損症)のデバイス閉鎖も行っています。2020年からは経皮的左心耳閉鎖術(WATCHMAN)も開始しました。いずれのSHD診療においても、心エコー図評価は要です。リアルタイムに描出する3D経食道心エコー画像は、術野の役割を果たします。術中のデバイス留置は、心エコー医が主導的な立場で進めます。SHD診療の発展とともに、心エコースキルの専門性が高まり、心エコー医の活躍の場が広がっています。

  3. 肺高血圧

    一昔前は治療が難しい疾患領域でしたが、近年の治療の発展に伴い、適切な早期診断、早期治療が叶えば、安定経過が見込める疾患となってきました。一方、肺高血圧症は多彩な病態を呈することが多く、診断、治療、経過観察の過程は複雑であり、診療にあたっては専門施設、専門医との連携が不可欠です。当科はあらゆる病態に最適な医療を提供できるよう体制を整えています。肺高血圧症に対する薬物治療はもちろん、慢性血栓塞栓性肺高血圧症に対するカテーテル治療も学会認定された指導施設として診療にあたっています。

  4. 二次性心筋症

    当院では様々な二次性心筋症に対する診療も行なっています。また、二次性心筋症の診断に重要な心内膜心筋生検も年間100件以上行われており、実際の病理像は、我々、心不全臨床医が読影能力を有しており、臨床経過と病理を照らし合わせながらの診療を心がけています。

    1. アミロイドーシス

      肥大心や原因不明の拡張不全心に潜むアミロイドーシスの診断は、特別な検査を要するため、診断が難しく、他疾患として治療を受けている症例も少なくありません。また、血液疾患に関連する場合や、神経症状を呈する場合など、他科との連携も不可欠です。現状では薬剤処方が可能な施設も限られています。当院は、あらゆるアミロイドーシスに対応可能です。

    2. サルコイドーシス

      心臓サルコイドーシスは、心不全や致死性不整脈の原因となります。未治療では進行し不可逆的な異常に進展するため、完全房室ブロック、心室頻拍、心筋症、説明のつかない心電図異常を呈する症例では、鑑別すべき重要な疾患です。診断には、呼吸器内科、眼科、皮膚科との連携および、FDG-PET検査や心臓MRIなどの専門的な画像検査が必要ですが、全て当院で対応可能です

    3. Fabry病

      必要な酵素が足りないために、全身に糖脂質が蓄積する先天代謝異常症です。四肢末端痛、低汗症、眼症状、腎障害、脳血管障害などの全身の諸症状を認める症例から、心臓のみに症状が集中し(心肥大、不整脈、心不全)、診断が難しい症例まで存在します。酵素補充療法など特殊な治療が必要とされる疾患ですが、当院では診断治療に際して遺伝子診療部とも連携し診療にあたっております。

  5. 成人先天性心疾患 (ACHD: adult congenital heart disease)

    近年、増加の一途を辿るACHDは、特殊かつ専門的な診療を要します。当科では、ACHDの専門外来を設置し、3人の医師で担当しています。小児科、小児心臓血管外科、産科などの専門科や多職種との協力が不可欠ですが、当院にはあらゆる診療科や職種が揃っており、種々の対応が可能です。また「成人先天性心疾患専門医総合修練施設」にも認定されています。

    1. 成人移行

      これまで子どもの病気と考えられてきた先天性心疾患は、近年の治療成績向上により、成人期の治療の場が求められるようになりました。年齢や体格の問題だけでなく、成人期にはライフスタイルがより多様になり、活動範囲も広がります。成人期特有の疾患にも注意を向けなければなりません。そのため、当院では一定の年齢に達した方において、社会的環境や疾患の状況などを加味しながら“成人移行”として小児科から当科へ診療科変更し、そのタイミングで、これからの長い期間、自身の病気と付き合っていくために疾患の理解を深め、普段から自己の体調管理を行うよう指導を行い、また就労などの社会活動に対してサポートを行う移行体制を整えています。

    2. 特別管理外来

      ACHDの患者様に生じてくる問題は、主病名のみならず、合併している心奇形や血管走行異常の有無、小児期に受けた心内修復術の種類によって様々です。心臓の問題以外にも、連動した他臓器に問題を抱えている場合もしばしばあるため、患者個々の血行動態を把握し、一般循環器診療よりも深く、臓器連関を意識し診療に当たる必要があります。またACHDの患者様は、学校、家庭、仕事といった社会活動を確保する必要のある20~50代の世代が多いのも特徴です。医療による疾病管理はもちろんのこと、社会活動の維持や復帰を目指すのもACHD外来の命題です。治療法は、薬物治療、アブレーション、デバイス治療を始め、弁膜症やシャント疾患に対するカテーテル治療や開胸手術など、多岐にわたって存在しますが、患者様の病態に応じた複合的な治療戦略を立てることが重要となります。当院は、各部門のスペシャリストが常在しているために、患者様に最適な治療戦略を立てることが最大の特徴となります。

  6. 心臓画像

    近年の循環器診療において、様々な画像診断装置の進歩により、マルチモダリティイメージングは臨床的に重要な位置づけとなってきています。心臓MRI、心臓CT、核医学検査などの非侵襲的マルチモダリティは、診断や重症度評価だけでなく、治療方針の決定や予後予測判定という面で臨床上重要な役割を果たします。当科では、通常臨床だけでなく、臨床研究にも力を入れており、過去の画像を用いた臨床研究から、新たなエビデンスの構築を目標とし、学会・論文発表を行っています。

  7. 留学、研究

    大学病院ということもあり研究にも力を入れています。主に行っているのは多種多様な心不全症例データを用いた臨床研究であり、実臨床の経験から生じたクリニカルクエスチョンを解決していく研究を行っています。当院には複数の心不全データベースが存在し、特に拡張型心筋症に関しては500例を超える大規模なデータベースを有しています。大学院生はもちろん専攻医でも希望があれば、研究を行うこともできます。近年では他施設との共同研究に積極的に参画し、より大規模な研究を行うようになってきています。研究成果は国内外の主要学会での発表、論文作成を行います。もちろん論文作成まで当班のスタッフが丁寧に指導します。

    また当大学は国内・国外問わず留学経験者が多いことも特徴です。現在は鍋田先生がオランダのLeiden University Medical Centerに留学し心不全と心臓画像検査(エコー、MRI)の臨床研究を行っています。教授や医局長も留学を推奨していることもあり、将来的に留学を検討している方にもお勧めできます。