循環器内科教室について

不整脈は電気信号の異常で起こる

心臓の病気は大きく3つに分けられます。心臓のポンプ自体の異常で起こるのが心不全、栄養供給の異常で起こるのが冠動脈疾患、ポンプに指令を伝える電気回路の異常で起こるのが不整脈です。

不整脈の原因は、老化によるもの、生まれつき伝導機能の異常によるものもありますが、最も多いのは特定の心臓病に伴い電気回路が破壊されて起こるケースです。逆に不整脈から心臓病を引き起こす場合もあります。患者さんには、不整脈だけではなく、病気全体を治しながら不整脈を治療しましょうと伝えています。何かの病気に絡んで起こってくることが多いため、心筋梗塞や心不全、虚血全てを把握する必要がありますので、総合プロデューサー的な視点が必要です。

脈の回数は1日平均10万回で、そのうち100回程度の脈の乱れは普通にあることで、いつも出るものではありません。動悸や脈が乱れる原因を知るためには、心電図を取る必要があります。

不整脈の治療の種類

不整脈にはいくつかの種類があります。ひとつは徐脈(脈が遅くなること)。治療としてはペースメーカーなどの機械を入れて脈を補い症状を緩和する治療が主です。心房細動には、発作性心房細動、持続性心房細動、永続性心房細動という分類があり、永続性の場合は手の施しようがありませんが、持続性の場合は助けられる可能性があります。一方で発作や動悸、頻脈(脈が速くなること)など重症な心室細動は、突然死に至ることもあり救命が必要な場合もあります。

ここ20年くらい心室細動、心室頻拍の治療は、「ICD(植え込み型除細動機)」を使っています。発作が起きると機械が感知して電気ショックを自動的に与える機械で、これが実用化することで多くの患者さんを救命できるようになりました。死に至ることはないが、動悸が出て困るという人には抗細動薬を使っています。効きますが副作用も強いので、薬の選択と量に関する知識と経験が不可欠です。と、これまではそれらが主でしたが、今は「カテーテルアブレーション」という方法もあります。心臓の中の頻拍の原因になっている場所を特定して熱で焼いて壊してしまう治療です。不整脈を起こしている悪い箇所を焼くことでWPW症候群や発作性上室頻拍といった不整脈は確実に治り、焼いても心筋全体に影響が少ないのが特徴です。

「カテーテルアブレーション」と「ICD」の違いは、前者は不整脈を無くそうとする予防治療に対し、後者は後始末をする治療です。予防できる確立は頻拍の程度にもよりますが、心室頻拍で60%、心室細動は5%程度です。生死にかかわらない不整脈であれば、カテーテルアブレーションの治療が有効で、多分野で応用されています。確実に助けるにはICDを使っています。

最近は着用型除細動機(WCD)という機械もあります。欧米では10年前から使われていますが日本では2014年に導入されたばかりです。WCDはICDと同じ役割をしながらも必要な時に着用して不要になったらはずせます。当院では急患に一時的に使っています。

近年、心筋梗塞で心機能が落ちた患者さんは突然死の可能性が高く、ICDを入れても長生きしないことが臨床で示されています。入れて3ヶ月経つと回復する人がいたためICDを入れる意味がないという結果が出たのです。別の研究では心筋梗塞を起こしてからICDを入れるかどうかを3ヶ月後に判断すると予後が良くなるというデータが出ています。その間の突然死を避けるため、ドイツやアメリカでWCDが使われています。日本でも普及させたいのですが、コスト的なデメリットがあるため日本で導入しているのは採算を度外視した一部の国立大学に限られています。利益が出るようにすると必要がなくても使う病院が出てくるため事情が複雑です。当院では研究費を当てて使用しています。

不整脈の原因と研究課題

カテーテルアブレーション治療のために最適な場所を特定しようと、これまで緻密な研究や学問をしてきた経緯があります。1995年頃、ある先生が左心房の中の一部を焼くことで90%不整脈が治る場所を見つけました。左心房の中に後ろから入っている4本の肺静脈を、輪を描くようにしてそこが電気を出さないように押さえ込む方法です。時代とともに肺静脈に起因しない心房細動が多いこともわかってきましたので、現在は、心房細動の時の心電図を高速フーリエ変換(FFT)という方法で周波数を解析し、心房細動の状態を把握しようとしています。焼けば本当に治るのかどうか、焼くのに適した時期はいつか、焼いてもあまり効果がないのかどうか、という判断が、いずれは身体の外からわかるようにしたいと思っています。まだ発展途上ですがそれが世界の中心的な研究になっています。

ではなぜ不整脈の原因となる電気回路に異常が生じるのか?ということも研究の対象です。それまで健康だった心臓が不整脈になった要因を解明できれば抑止できるのではないか?という考えがあります。この概念をアップストリーム治療と言います。しかし研究を通して、アップストリーム治療で全てが上手くいくわけではないことが明らかになってきました。心筋梗塞や心不全にならなければ不整脈にならなかったと言ってしまえば、他の疾患の治療が大事だということになるからです。ただ言えることは、不整脈を単独で考えるのではなく、もとの疾患と併せて総合的な治療をしてこそ不整脈の治療なのだということです。

病気にもよりますが、老齢・高齢者に心房細動や不整脈が多く、突然死は中高年者に多くなっています。人生の大事な時期に突然倒れて働けなくなったり、年間数万人も突然死する人が出たり、というのは社会的問題ですので、どうやって予知するのか、どのように治療をするのか、どんな薬がいいのか等、全てが研究課題になります。ようやく治療法が揃ってきたので正面から研究できる段階になったと思っています。

病気によって引き起こされる心臓の変化をリモデリングといいますが、リモデリングとアップストリーム治療の関係に関する研究もしています。リモデリングの機序を研究して臨床的な治療にどう結びつけるかということで、動物実験を通して、特定のイオンチャンネルの修復、薬を使った抑制によって、リモデリングとそれに対する治療のアプローチをしています。

もうひとつは突然死に関する研究です。ICDを中心とする除細動機を入れた患者さんのうち、どのような人に作動回数が多いのか、それをどう減らしていけるのか、どういった兆候を持った人に注意が必要なのか、疾患の状況や心電図の状態からそれを予測できないのか、ICDを上手に使っていくこと自体がひとつの研究テーマです。