リハビリテーションは医学史的には戦後発展してきた新しい分野です。昭和の時代は、少しずつ身体を動かしてみようとか、退院後こんな仕事なら大丈夫だろうといった手探り状態での指導しかできませんでしたが、今ではデータの蓄積によって、個別に細かくアドバイスができるようになりました。退院したらテニスができるか?というような個別的な質問に対しても、今は運動負荷試験をして具体的指導ができるようになりました。当院の患者さんのデータを集積、分析して、より良い治療方針ができるようにしています。まだエビデンスレベルが低いので、結果を学会で発表して広く知らしめていくという段階です。心臓リハビリテーションは他の分野に比べて発展途上なので、計測したデータはそのまま蓄積され、それが臨床研究の糧になっています。全国的にも年間の患者数は北里がトップクラスですから、データの信頼性が高く、世界レベルでも北里大学の発進力は高いと思っています。
20世紀の医療は、ひとつの疾患に対する医学の発展が目覚ましかった。放射線や抗がん剤を使って治療する癌がいい例です。ところが各疾患をほぼコントロールできるようになった21世紀は、患者さんの全身をどうやって良くしていくかが課題です。癌でも他の生活習慣病でも発症予防に重点が置かれ、そのための方法を提案していくのがリハビリテーションだと思います。実際、ほとんどの人が病気を抱えながらの長生きより、PPT(ピンピンコロリ)という健康のまま逝きたいと望んでいます。健康寿命を長くする可能性があるリハビリテーションは、そういった意味では最先端の21世紀型医療だと言えます。まだファジーな部分があるので、そのエビデンスを構築していくのが今後の研究課題です。
今は良い薬がありますが、リハビリテーションはその薬に匹敵する以上の効果があります。死亡率、再入院率の抑制は、薬よりもリハビリテーションの方が良い結果が出ています。血圧も下がるし、コストパフォーマンスもいい。身体を動かすのは苦痛なので薬を飲んで治したいという人も中にはいますが、私たちは少しでもいいからリハビリテーションに来てくださいというスタンスです。
運動療法で使う機械はスポーツジムにあるのと同様で、トレッドミル(ウォーキングマシーン)とエルゴメーター(自転車)の2種です。患者さんの運動中は心臓発作が起きないように、心電図で常にモニタリングしながらの監視下で行っています。外来で来る患者さんには自宅でできる運動処方をしています。心臓リハビリテーションに来る患者さんにはそれぞれ主治医がいて、内科や循環器内科で管理されていますが、個人情報を含むデータを全コメディカルスタッフで共有して治療にあたっています。
退院後の患者さんのゴールはそれぞれ違います。心臓リハビリテーションによって日常生活に復帰できる人もいれば、手術後も歩行困難な状態の人もいます。どのような容態であってもリハビリテーションは生涯にわたって介入し、患者さんとともに歩んでいきます。それがこの班の大きな特徴です。
心臓リハビリテーション班では、患者さんの心臓の状態をモニタリングして、心電図や心臓の機能を評価しています。心臓だけでなく骨格筋や全身の代謝を診ながら全身の機能を併せて評価することが重要です。心臓リハビリテーションの受診者は高齢者が多く、心臓疾患を再発することがあるので、心臓を鍛えるというよりも全身の状態をレベルアップして再発を予防するプログラムを組んでいます。
心臓リハビリテーション目標は、できるだけ健康寿命を長くすることです。そのため定期検診では、患者さんを生涯にわたってより良い状況に導くために多職種多方面からの包括的リハビリテーションを行っています。一番大切なのは全身の機能を高める運動療法です。その他、入院中の患者さんの不安を払拭し、ご家族にも精神的なケアを行うカウンセリング、禁煙指導におけるメンタルケアや足腰の弱い人には家庭内の段取りまで提案する生活指導を行っています。
チーム医療ですので、循環器内科の医師、看護師、医学療法士、管理栄養士、臨床心理士、薬剤師がディスカッションを重ねて患者さんに最適な方法を模索し、各専門家が経験を活かして介入していくことになります。