研究トピックス

2018年05月

VADの説明

助教・心不全班 石井 俊輔

北里大学病院は、認定植込型補助人工心臓実施施設です。
2016年より植込型補助人工心臓治療が本格始動しました。

ここでは、重症心不全に対する治療法である補助人工心臓について説明します。

1.重症心不全とは

心不全とは、心臓が悪いために(心ポンプ機能の低下)、息切れやむくみが起こり、だんだんと悪くなり、生命を縮める病気です。その原因は、多岐に渡ります。狭心症や心筋梗塞など、心臓を栄養する血管に異常をきたした場合や、血管に問題はなくとも、心筋自体に問題がある場合など患者さんによって様々な原因があります。それぞれの病態に合った薬物治療などが行われ、多くの患者さんは症状が改善しますが、ここで取り上げる重症心不全は、心ポンプ機能の低下が極めて高度であり、十分な治療を行っても改善が得られない状態を指します。

2.治療法

通常治療で回復が得られない重症心不全の患者さんは、自分の心臓では、全身への循環が維持できない場合があります。なかには、医療機関を受診した際には、時間的猶予がなく、非常に切迫した患者さんもいます。そのような重症心不全患者さんに対する治療としては、機械により循環をサポートする機械的補助循環があります。

a) 経皮的補助人工心肺装置

経皮的に右心房、大静脈から血液を吸引して、動脈に送血する機器を経皮的補助人工心肺装置 (PCPS)と言います。一時的な補助で回復が見込める場合や緊急の際に用いられます。麻酔薬で鎮静した状態で使うため、患者さんは人工呼吸器による管理が併用され、ベッド上で使用することとなります。

b) 体外式補助人工心臓

体外式補助人工心臓は、体外に拍動型ポンプを設置します。左心室から血液を吸引する管および、大動脈に血液を送る管を開胸手術により装着します。手術後、人工呼吸器管理から離脱できることが多く、行動範囲も広がり、駆動装置ごとリハビリを行うことも可能です(図1,2)。しかし、大きな駆動装置とともに生活することを余儀なくされるため、補助人工心臓治療が必要な状態が続く限りは、退院は不可能です。自己の心臓の回復を待ちながら、心臓移植の適応を検討します。人工心臓管理中の問題は、その間の血栓、出血、感染であり、一定頻度で待機期間中に合併症を起こすことがあります。

毎日のポンプ確認 リハビリ風景
(実際の患者さんではありません)

c) 植込型補助人工心臓

体外式補助人工心臓がもつ問題点を軽減したものが、当院においても可能となった植込型補助人工心臓治療です。体外式補助人工心臓と同様に、開胸手術にて管を留置しますが、ポンプ自体も体内に設置します。体外式では不可能な退院を目指せることが、大きなメリットです。前述した、血栓、出血、感染などの合併症も体外式に比べると頻度が減少します。しかし、ポンプへの電源供給は、細い管を通して体外から行う必要があります。そのため、退院前には、機器管理に必要な知識の習得と十分な訓練が行われます。また、24時間サポート可能な介護者(主に家族)にも十分な知識習得が成され、ようやく退院が可能となります。

HeartMate Ⅱ

留置イメージ

 

3.治療方針の決定

最後に、補助人工心臓の治療は、誰でも受けられるものではなく、制限があります。補助人工心臓適応検討委員会の承認の下、治療方針が決定されます。